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司法書士・行政書士田𠩤良隆事務所
裁判事務
裁判事務とは、裁判所・検察庁に提出する書類の作成業務を言います。裁判事務は、登記業務や簡裁代理業務の陰に隠れて目立たない存在ですが、これこそ司法書士本来の業務であると言えます。
そもそも司法書士の起源は、明治5年(1872年)の太政官無号達による司法職務定制公布に始まります。この司法職務定制においては、証書人、代書人、代言人の3職種を定めました。これはフランスの制度に習ったもので、証書人は今の公証人にあたります。そして、フランスの法定弁護士(avocat)、事務弁護士(avoue)の制度を取り入れて、それぞれ代言人、代書人を定めました。代言人は今の弁護士に、代書人は今の司法書士にあたります。
代言人の方は、明治26年(1863年)に、名称が弁護士と改められました。これに対し、代書人の方は、法の表面に浮かび上がることなく、深く広く庶民の中で法律実務家として活動を続けました。そして、大正8年(1919年)に至り、ようやく司法代書人法の制定により法律上の職制となり、昭和10年(1935年)に司法代書人法が制定され、現在の職名である「司法書士」となりました。
因みに大正9年(1920年)には、一般代書人規則(内務省令)が制定され、これが行政書士の起源と言われています。なお、一般代書人規則は、昭和22年12月に内務省が廃止されたことに伴い失効しましたが、昭和26年(1951年)2月10日に行政書士法が成立され、法律上の職制になりました。
裁判事務が日陰の存在になったのは、司法書士が登記事務を行うようになったことが始まりです。登記事務は現在では法務局で行われていますが、そのような登記事務をどうして司法書士が行うようになったかというと、明治19年(1886年)に制定された登記法では、登記事務は裁判所が取り扱うことになっていたからです。すなわち、登記制度のスタート時点では、登記申請書は正に裁判所に提出する書類であり、裁判事務そのものだったのです。会社の設立・変更や不動産取引の度に行う登記は、訴訟などの裁判に比べて格段に件数が多かったため、登記事務は司法書士の業務の大半を占めることになりました。
そして、太平洋戦争が終結し、新憲法の下、昭和22年(1947年)、3権分立を貫徹する意味で行政事務である登記事務は裁判所の所管から司法事務局という役所の所管となりました。さらに、昭和24年(1949年)、旧司法省から改組された法務府(現法務省)の法務局が登記事務を所管するようになりました。
こうして、登記事務の所管が裁判所から法務局へ移ったことにより、司法書士の仕事の大半が法務局へ提出する書類の作成となり、司法書士が裁判所へ出かける頻度も少なくなってきました。そして、つい数年前までは、登記事務だけで裁判事務をほとんど行わない司法書士が司法書士の大半を占めるようになりました。
その後、平成15年7月、認定司法書士に簡易裁判所における訴訟代理権が付与されてから、司法書士の業務における裁判事件の比重は飛躍的に高まりました。しかし、その大半は従前の裁判所へ提出する書類の作成業務ではなく、訴訟代理人としての業務であり、従来の弁護士業務の一部に属するものです。
しかし、私が「ふれれば法はあたたかい」をモットーとしているように、私は司法制度は国民の権利を擁護するためのものであると考えています。そして国民の全てが司法制度による救済を得ることができるためには、裁判事務が最も重要な制度であると思っています。もし、司法的救済が法律家である弁護士や認定司法書士等の訴訟代理人によってでしか行えないものであるとしたら、法律専門家へ依頼することができない経済的弱者は、法的救済を受けられないことになってしまいます。それは、法律専門家も訴訟代理を職業としている以上、代理人の日当を考えると、報酬が相当高額にならざるを得ないからです。実際、サラ金やクレジットなどで多額の借金をかかえた多重債務者で、弁護士事務所へ相談へ行ったが、弁護士に事件を依頼する時に支払う着手金が用意できないので、司法書士事務所へ来たという人がたくさんいます。多重債務者は、サラ金等の執拗な督促に怯えて、本来であれば生活費に費やすべきなけなしのお金まで返済へ回している人が多いのですから、高額な弁護士の着手金など払えないことがほとんどです。そのため、弁護士に自己破産を依頼するのは、企業倒産の場合の経営者のように、破産に至る前からお金に裕福であった人か、弁護士費用を出してくれる親族がいる人がほとんどです。お金のない人は、司法的救済の場面でも、救われないということです。そのため、本人が自分で裁判所に出頭して裁判を行う本人訴訟の支援である裁判事務こそが、法律専門家へ訴訟代理を依頼できない経済的弱者の権利を擁護する最も重要なものであると考えています。
司法書士本来の業務である裁判事務は、経済的弱者の権利を擁護するため、経済的弱者と二人三脚で裁判を進めていくための重要な手段です。司法書士はその意義を見直し、積極的に裁判事務に取り組んでいくべきだと思っています。